介護外国人採用に関する技能実習制度

 

1. はじめに

日本では少子高齢化が急速に進展しており、とりわけ介護分野の人手不足は深刻さを増しています。厚生労働省の試算によると、2040年には約69万人もの介護人材が不足する見通しです(厚生労働省資料)。その人材確保策の一つが外国人材の受け入れです。

これまで、日本における外国人介護人材の受け入れルートは、EPA(経済連携協定)による介護福祉士候補者、留学生としての受け入れ、特定技能制度、そして技能実習制度の4つに大別されてきました。中でも技能実習制度は、外国人が介護業務を現場で経験しながら日本の技術・知識を習得し、それを母国に持ち帰ることで国際貢献を果たすという理念を持っています。

以下では、介護分野における技能実習制度の詳細を解説し、導入背景、受け入れ要件、現場の実際、課題と展望について、包括的に整理していきます。


2. 技能実習制度とは

制度創設の経緯

技能実習制度は、1993年に創設されました。当初は縫製業や農業など一部の製造・生産分野に限られていましたが、介護分野が正式に技能実習の対象職種となったのは201711月のことです。それ以前はEPAルートが唯一の介護分野受け入れルートでした。

制度の目的は、日本の優れた技能や技術、知識を開発途上地域に移転し、その国の経済発展や産業振興に寄与することです。単なる労働力確保ではなく、あくまでも「人材育成」が建前であり、この点が特定技能制度との最大の相違点です(JITCO)。


3. 介護職種が技能実習の対象となった背景

介護分野の人手不足は深刻さを増す一方で、EPAルートによる介護福祉士候補者受け入れは制度上の制約も多く、人数も限られていました。そこで、日本政府は人材不足対策の一環として、技能実習制度の対象職種に介護を加えることを決断しました。

ただし、介護は人の生命や尊厳に深くかかわる業務であるため、安易な労働力確保の手段とはすべきでないとの懸念も強く、導入にあたっては、他職種に比べてはるかに厳格な要件が設定されています。


4. 介護技能実習の仕組み

技能実習は以下の3段階で構成されます。

技能実習1号(1年目)

  • 入国後に講習を受講(日本語、生活ルール、法制度、介護基礎知識など)
  • 監理団体の支援のもと施設でOJT開始
  • 技能検定基礎級の受験が課される

技能実習2号(23年目)

  • 実務を継続しながら技能を深化
  • 技能検定3級(実技試験含む)の合格が必要

技能実習3号(45年目)

  • より高度な技能習得が目的
  • 在留資格「技能実習3号」に移行
  • 技能検定随時3級の合格が必要

介護分野で実習3号まで進むには、高い日本語能力が求められます。特に利用者とのコミュニケーションが必須であり、会話力はもちろん、書類作成も求められるため、他職種よりも言語要件が厳しいのが特徴です。


5. 技能実習生の要件

介護分野の技能実習生には、以下の条件が課されています。

  • 年齢:18歳以上
  • 日本語能力:
    • 1号開始前にN4相当以上(またはJFT-Basic200点以上)
    • 2号以降はN3相当以上が推奨される
  • 母国での職歴:
    • 介護関連業務経験
    • または介護関連教育(6か月・320時間以上)の修了
  • 心身ともに健康であること
  • 制度趣旨を理解し、帰国後も介護分野に従事する意志があること

送出し国側でも、送出機関が一定の教育カリキュラムを提供し、日本語や介護の基礎知識を身に付けるプログラムが用意されています(厚生労働省資料)。


6. 受け入れ事業所の要件

介護分野の技能実習を実施する事業所は、以下の要件を満たす必要があります。

  • 居宅サービス以外の介護事業所(施設系・通所系・短期入所系など)
  • 開設後3年以上経過していること
  • 常勤介護職員が在籍していること
  • 実習指導員:
    • 介護福祉士資格保持者
    • 5名の実習生につき1名以上配置
  • 夜勤や緊急対応に備えた体制を整備していること

また、監理団体との連携が必須で、定期的な監査を受けることが義務付けられています(JITCO)。


7. 実習内容と学習体系

実習計画は細かく作成され、実施時間の割り振りも厳格です。

必須業務

  • 身体介助(入浴、食事、排せつ)
  • 移動介助
  • 更衣・整容

関連業務

  • 記録書類の作成
  • レクリエーション支援
  • 備品管理

周辺業務

  • 清掃
  • ベッドメイキング
  • 環境整備

技能実習では身体介護が全体の50%以上を占める必要があります。訪問介護については、単独業務や緊急時対応が求められるため技能実習の対象外です(全国社会福祉協議会)。


8. 人数枠と受入れ数

介護分野では、受入れ人数に上限が設けられています。

  • 常勤職員1実習生1
  • 常勤職員3実習生3
  • 常勤職員11実習生6
  • 常勤職員51実習生18

実習生数は常勤介護職員の数を超えることができず、外国人比率が高まりすぎることへの懸念から厳しく制限されています(JITCO)。


9. 入国前後の教育

入国前教育

送出し国において最低240時間以上の日本語教育と、42時間以上の介護導入教育が行われます。内容は以下の通りです。

  • 日本語の基礎文法
  • 介護用語
  • 日本文化・習慣
  • 日本での生活ルール

入国後講習

入国後は約1か月の集合講習が行われます。講習では、法律、労働関連法規、介護実践研修、生活指導などが含まれ、現場配属前の重要な準備期間となります(みんなの介護)。


10. 実習のメリット

介護技能実習には多くのメリットがあります。

  • OJTによる実践的スキル習得
  • 母国での介護分野発展への貢献
  • 特定技能制度や国家資格取得へのステップアップ
  • 異文化交流による現場活性化

介護実習生は日本の介護の質の高さを直接学べるため、帰国後の人材育成にもつながります。


11. 実習の課題

一方で課題も存在します。

  • 日本語力の差により現場でのコミュニケーションが難しい
  • 文化や宗教習慣の違いによる誤解
  • 配属施設によっては過度な負担が集中する恐れ
  • 実習制度の趣旨を超えた「労働力化」への懸念

とりわけ介護は利用者の人権や生活の質を左右するため、コミュニケーション能力の向上が最重要課題とされています。


12. 特定技能制度への移行

技能実習2号または3号を修了した介護実習生は、試験を免除されて**特定技能1号(介護)**への移行が可能です。これにより、在留可能期間がさらに5年間延長でき、日本でのキャリアを継続できます。

その先には介護福祉士国家試験の受験資格取得も見据えられており、合格すれば在留資格「介護」に変更でき、在留期限が無期限となり家族帯同も認められます。


13. 現状と展望

2023年末時点で、介護分野の技能実習生数は約18,000人程度に達しており、今後も安定した受け入れが見込まれています(ウィルオブ・ワーク)。

今後は以下のような展望が期待されています。

  • 特定技能制度との連携強化
  • 入国前教育のオンライン化
  • AI翻訳ツールの活用によるコミュニケーション支援
  • 実習内容の多様化と訪問介護解禁の検討

技能実習制度は単なる労働力確保策ではなく、外国人のキャリア形成や母国の社会貢献という目的を持つ制度であり、適正運用が一層求められます。


14. まとめ

介護分野の技能実習制度は、厳しい基準と多様な教育体系のもと運用されており、単なる労働力ではなく、人材育成と国際貢献を目指す枠組みです。高い日本語力が必要とされる一方で、特定技能制度への移行、さらには国家資格取得を通じて、外国人材の長期的なキャリア形成を支える制度として重要性を増しています。

受け入れ事業者には、制度趣旨の理解と適正な運用が強く求められており、今後も継続的な制度改善と支援体制の整備がカギとなります。


参照リンク

 

  • 厚生労働省 - 介護分野の技能実習制度
  • JITCO - 技能実習制度 介護分野
  • みんなの介護 - 外国人介護人材
  • ウィルオブ・ワーク - 技能実習と特定技能の違い