中国人の労働目的での来日者の減少

中国はすでに日本を超える経済発展をとげてしまいました。昔は多くの中国人が日本に技能実習や特定技能目的で来日していましたが、現在はそれが大きく減ってしまっています。以下理由を記載します

中国の経済発展により国内就労の魅力が高まった

過去20年間で中国は急速な経済成長を遂げ、世界第2位の経済大国となりました。この経済発展により、都市部を中心に労働環境や給与水準が大きく向上し、かつてのように「出稼ぎ」のために日本を目指す必要性が薄れてきています。

とくに沿岸部の広東省、上海、浙江省などでは、自国の製造業・IT産業・物流などの分野で若者が安定した雇用を見つけやすくなり、国内の労働市場が外国就労に代わる魅力的な選択肢になっています。

 

中国国内の賃金上昇と日本との給与差の縮小

かつては「日本で働けば中国の3倍以上の給料がもらえる」という印象が強く、技能実習制度は中国人にとって非常に魅力的でした。しかし、近年は人民元の上昇や日本円の相対的な下落もあり、日本での給与水準の価値が相対的に下がってきました。

また、中国国内では最低賃金や初任給が年々上昇しており、とくに製造業やサービス業の若年層向け求人では、北京・上海・広州などの都市部で月給8,000元(約16万円)以上の案件も珍しくなくなっています。これに対して、日本での技能実習は手取りが多くて15万円前後とされており、リスクや日本語の壁を考慮すると見合わないと判断する若者が増えています。

 

中国の若者人口の減少と労働需要の増加

中国では一人っ子政策の影響を受けて若年層人口が急減しています。現在では人口全体に占める20代の割合が減少しており、都市部だけでなく地方都市でも若手労働力の確保が課題となっています。

この若年労働力不足により、企業側は待遇改善や福利厚生の充実を図るようになり、若者にとって国内での就職機会が豊富に存在するようになりました。結果として、「外国に出なくても十分な仕事がある」という環境が整いつつあり、日本への技能実習を選択する必要性が低下しています。

 

中国の若者の労働意識の変化と寝そべり族の増加

近年、中国では「躺平(寝そべる)」という言葉に代表されるように、競争社会に疲弊した若者の間で、過度な労働や出世競争から距離を置くムーブメントが広がっています。これは、日本における技能実習のような肉体労働・長時間労働のスタイルを敬遠する心理につながっています。

また、SNSやインターネットの普及により、「自由な生き方」「在宅ワーク」「副業」など多様な働き方が注目され、工場労働や建設現場での技能実習に対して、ネガティブなイメージを持つ若者が増えているのが実情です。

 

技能実習制度に対する否定的な評判と不信感の広がり

日本の技能実習制度に対しては、過酷な労働環境や賃金未払い、パワハラ、自由の制限などの問題が国内外で報道され、SNS等を通じて中国の若者の間にも広がっています。「技能を学ぶ」といいながら実態は単純労働であり、かつ転職もできないという制度上の不自由さが敬遠される要因となっています。

一部の送り出し機関においても、誇大な宣伝や高額な手数料を要求するケースがあり、中国国内での信頼が徐々に低下していることも、志望者減少の一因です。

 

中国政府の政策転換と出国の抑制傾向

中国政府は近年、「国内回帰型の発展モデル」への転換を進めており、優秀な若者が海外に出ることを抑制する傾向があります。特に技能実習のように低賃金・単純労働を目的とする出国は、国の威信や人的資源保護の観点からも望ましくないとされる風潮があります。

また、コロナ禍以降のビザ発給や移動制限などの影響もあり、制度上の出国難易度が高まったことも、申請者減少の遠因となっています。

 

他国との競争と送り出し市場の変化

日本の受け入れ制度が緩やかに改革される一方で、他国(韓国、台湾、シンガポール、ドイツなど)でも介護・製造分野で外国人を受け入れる制度が整備され、中国人にとって「日本は唯一の出稼ぎ先ではない」という選択肢が増えました。

その結果、賃金水準・制度の柔軟性・転職のしやすさなどを比較したうえで、あえて日本を避ける傾向が若者の間で進んでいます。

 

結論

かつて日本の技能実習制度は、中国人若者にとって重要な就労機会でしたが、現在では経済発展・賃金上昇・若者の価値観変化・国内の労働需要増加などの複合的要因により、その魅力は大きく低下しています。

今後は、中国に代わる送り出し国(ベトナム、バングラデシュ、インドネシアなど)の育成や、技能実習制度そのものの見直しが急務といえるでしょう。