フィリピン政府による実習生・特定技能に関する採用規制とコスト

 

はじめに

フィリピンは長らく世界有数の海外労働者輩出国として知られ、日本にも技能実習や特定技能の制度を通じて多くの人材を送り出してきました。しかしその裏では、手続きの複雑さ、遅延、そして高額な手数料などが社会問題ともなっています。本稿では、政府の認可手続き、送出し機関との関係、認可の遅さ、手数料の構造などについて、段階的に解説します。


1.技能実習・特定技能制度の概要とフィリピン人特有の手続き

日本の技能実習制度および特定技能制度では、外国人が日本での就労を希望する際、政府や受入機関による事前認可が必要です。

一方で、フィリピンの場合は特に、政府系機関が多く関与し、かつ申請プロセスが二重構造になっており、日本や他国からの申請よりも複雑です。


2DMWMWOによる認可の仕組みと課題

日本企業がフィリピン人を技能実習・特定技能として雇用するには、以下の手続きが必要です。

  1. DMW(旧POEA)への雇用主登録
  2. MWO(旧POLO)での申請者書類提出と英語インタビュー
  3. 推薦状や承認印付き書類を取得

これら一連の手続きには以下の課題があります。


3.手数料の構造とその高額性

技能実習・特定技能制度では、「政府手数料」「送出し機関手数料」「個人負担」といった複数の費用が発生します。

  • **送出し機関(エージェント)**には、教育・交通費などに加えて、1人あたり1,5005,000米ドル(日本円で1550万円)の手数料が請求されるケースがあり、大きな負担となります gaikokusaiyo.com+5tokuteiginou-online.com+5global-saponet.mgl.mynavi.jp+5
  • 政府が定める運用上は、「政府手数料や紹介料は原則無料」とされているものの、その実態には大きな乖離があります ombudsman.gov.ph
  • また、労働許可証OEC取得のための手数料が必要で、OEC発行が無料化されたものの、それ以前には多額の負担があったことも問題視されています 。

4.審査遅延による雇用機会の損失

  • フィリピン人の申請は通常24ヶ月かかるのに対し、技能実習生では69ヶ月、特定技能の場合/79ヶ月にも延びる場合があり、企業側は計画が立てにくくなります prii-llc.com+7gaikokusaiyo.com+7nihongocafe.jp+7
  • この遅れが原因で、日本企業はフィリピン人材を敬遠し、他国(ベトナム、インドネシアなど)へシフトする傾向が見られます 。
  • また、審査が通らない=OECや推薦状が得られない=出国できないという事態になり、多くの内定者が就労前に頓挫しています nihongocafe.jp

5.不正・過剰徴収と監理体制の甘さ

  • ILOや市民団体からは、国が「倫理的な募集」の推進に失敗しているとの批判があります ombudsman.gov.ph
  • リクルーターが規定を超える手数料を徴収し、契約書内容が実際と異なる「契約すり替え」も報告されています 。
  • POEA(現DMW)は、**「リクルーターライセンス取得に保証金が必要」「審査後も再発行が容易」**など、制度の根本的見直しが指摘されています 。

6.法制度と現場規定の乖離

  • **共和国法8042(海外労働者保護法)**には「政府手数料の無料化」が規定されていますが、実際には有料化の状態が続いているのが実情です ombudsman.gov.ph+1immigration.gov.ph+1
  • また、「出発空港費用免除」「強制手数料禁止」などの条項も形骸化しており、現状の手数料制度はほぼ機能していません 。

7.フィリピン政府による認可手続きの遅さ

  • DMWMWOによる申請審査において、明確な基準やガイドラインが公開されず、書類修正が多く発生しています dmw.gov.ph+5global-saponet.mgl.mynavi.jp+5gaikokusaiyo.com+5
  • 英語面接での差し戻しも多く、担当官によって評価基準にばらつきがあるため、審査通過に不確定性が付きまといます

8.海外就労者への影響とリスク

  • 内定を得ても出国できなければ機会損失に直結し、教育費や準備費を支払っても報われない状況が続いています。
  • 不法手数料徴収や契約変更により、借金を抱えて就労失敗返済困難という深刻なケースも見られます 。
  • 労働者が出国できない場合、OEC取得ができず、帰国しにくくなるケースもあります en.wikipedia.org+2nihongocafe.jp+2global-saponet.mgl.mynavi.jp+2

9.国際比較と日本企業の選好変化

  • フィリピンはかつて最も信頼される送り出し国とされましたが、近年は手続きの煩雑さと費用負担の大きさから敬遠される傾向が出てきています 。
  • 一方ベトナム等は日本政府との二国間協定整備が進み、手続きも比較的シンプルで費用も透明です 。
  • 日本企業は採用までの時間とコストを重視し、結果的に他国へシフトする動きが活発化しています 。

10.改革の動向と今後の課題

  • 2023年にOECが無料化されたことは一歩前進ですが、その他送出し手数料の削減や審査簡素化は未解決です
  • ILONGOは「送り出し国としての責任を果たし、無料化・透明化・監査体制強化」を提言しています 。
  • 日本側でも、フィリピン政府との協議や制度改革支援、他国モデルの適用などが望まれています。

結論

フィリピン政府によるフィリピン人技能実習・特定技能制度の認可手続きは、手数料構造の不透明さ、審査遅延、制度と実態の乖離など、複数の構造的課題を抱えています。その結果、日本企業・働き手双方にコストと時間の負担が増し、他国に比べて選好が低くなる状況が進んでいます。

 

制度の改善には、政府が規定通りの無料手数料化と審査基準の透明化を実現し、送出し機関のモニタリング体制を強化することが必要です。日本側も二国間枠組みの深化やフィリピン側改革支援を通じて協力し、より公平かつ効率的な移労働の促進を図ることが求められます。