特定技能による介護外国人採用と定着までの流れ
1. はじめに
日本社会は急速に少子高齢化が進み、とりわけ介護分野では深刻な人材不足が続いています。厚生労働省の推計によると、2040年には約69万人の介護人材が不足する見込みであり、この課題に対応するため、外国人材の受け入れが重要な施策となっています。
2019年4月に創設された「特定技能」制度は、介護分野を含む14の産業分野において即戦力となる外国人材を受け入れるための仕組みです。技能実習制度が「人材育成」色が強いのに対し、特定技能は「労働力確保」に重きを置き、より柔軟に活用できる制度設計がされています。
以下では、特定技能制度に基づく介護分野での採用の流れを、制度の全体像から現場運用、課題と対策、今後の展望まで詳細に解説いたします。
2. 特定技能制度とは
特定技能制度は、深刻な人材不足が顕著な産業分野で、即戦力となる外国人材を受け入れるために新設されました。介護分野では、特定技能1号が対象であり、特定技能2号は現在のところ存在していません。
特定技能1号では、在留期間は最長5年ですが、在留資格「介護」へ移行すれば在留期限がなくなり、家族帯同も可能になります。そのため、多くの外国人は特定技能をステップとして、国家資格取得を目指しています。
3. 特定技能介護採用の流れ 全体像
介護分野で特定技能外国人を採用する際の流れは、大きく以下のステップに分かれます。
それぞれのステップを詳しく見ていきます。
4. 人材の確保
4.1 人材探索の方法
特定技能人材を確保する方法は多岐にわたります。
(1) 海外の送り出し機関を活用
送り出し機関は、候補者の募集・教育を行う現地の公的または民間機関です。国ごとに認可された機関が存在します。
(2) 日本国内の人材紹介会社
日本国内に在留する留学生や元技能実習生を対象に、介護分野で転職を希望する人材を紹介してもらう方法です。
(3) 自社採用活動
求人媒体、SNS、施設HPを活用し、自社で直接外国人材を募集するケースもあります。ただし、採用後の手続きはすべて自社で行う必要があります。
4.2 元技能実習生の活用
技能実習2号を修了した外国人は、特定技能1号への移行が可能です。技能実習修了者はすでに日本語力が一定レベルに達しており、日本の職場文化にも慣れているため、非常に即戦力性が高い存在です。
5. 試験の受験・合格
特定技能介護を取得するためには、以下の試験に合格する必要があります。
5.1 介護技能評価試験
介護現場で求められる基本知識を問う筆記試験です。
試験は海外でも実施されています。
5.2 介護日本語評価試験
介護現場で必要な日本語を測る試験です。
合格基準はおおむね60%程度です。
5.3 日本語能力試験(JLPT)N4またはJFT-Basic
介護分野の特定技能では、日本語能力試験N4レベル、もしくはJFT-Basicで200点以上が必要です。
5.4 試験免除の例
技能実習2号を修了している場合、介護技能評価試験および介護日本語評価試験が免除されることがあります。
6. 雇用契約の締結
6.1 雇用条件
特定技能の雇用契約には以下の要件があります。
6.2 雇用契約書の内容
雇用契約書には以下が記載されます。
日本語と母国語の両方で作成することが推奨されています。
7. 特定技能協議会への加入
介護分野では、受け入れ事業者は「介護分野特定技能協議会」への加入が義務付けられています。加入の目的は以下のとおりです。
加入は出入国在留管理庁への報告にも必要です。
8. 在留資格認定証明書(COE)の申請
8.1 申請書類
COEの申請には多くの書類が必要です。
8.2 審査期間
通常1~3か月程度かかります。書類に不備があると大幅に遅れる場合があります。
9. ビザ取得・入国
COEが交付された後、外国人は日本大使館・領事館でビザ申請を行います。ビザ取得後、日本へ入国します。
10. 入国後オリエンテーション
10.1 登録支援機関による支援
特定技能制度では、受入れ事業者が外国人に対して「支援計画」を実行する義務があります。事業者自身が行うか、登録支援機関へ委託する形が取られます。
支援内容
10.2 オリエンテーションの重要性
特定技能外国人が日本社会に適応するためには、初期のオリエンテーションが非常に重要です。介護現場では、利用者とのコミュニケーションや個人情報の取り扱いなど、独特のルールが多く、理解不足がトラブルの原因になりかねません。特に介護分野では人命や尊厳に関わる業務であるため、徹底した説明が必要です。
11. 就業開始
11.1 OJTの実施
入職後、現場でのOJT(On-the-Job Training)が始まります。
OJT内容
特定技能外国人は即戦力として期待されていますが、日本式の細かい作業や文化的背景を理解するには現場指導が欠かせません。
11.2 夜勤業務
特定技能外国人も日本人と同等の夜勤業務に従事できます。ただし、日本語力や習熟度を慎重に見極める必要があります。
11.3 チームとの連携
特定技能外国人は、チームケアの一員として働きます。施設側は多文化共生のための研修を実施し、円滑なコミュニケーションを図ることが大切です。
12. 支援計画の実施
12.1 支援計画の義務
受入れ事業者には「支援計画」の実行が義務づけられています。支援内容には次のようなものがあります。
12.2 登録支援機関の活用
多くの事業者は登録支援機関を活用しています。支援機関は外国語対応が可能であり、入国後の生活や労務管理に関する支援を一括して請け負います。
12.3 支援計画違反のリスク
支援計画を怠ると、出入国在留管理庁から行政指導を受ける恐れがあります。悪質な場合、受入れ停止の処分が下される可能性もあります。
13. 在留資格更新
13.1 更新手続き
特定技能1号の在留資格は最長5年ですが、初回は1年、以後は1年・6か月・4か月単位で更新が必要です。
更新時の提出書類
13.2 転職時の手続き
特定技能制度では、同一分野内での転職が可能です。ただし、転職時には新たな雇用契約書を提出し、再度支援計画を作成する必要があります。
14. 国家資格「介護」へのステップアップ
特定技能1号は最大5年間の在留にとどまるため、多くの外国人は介護福祉士の国家試験合格を目指します。合格すれば在留資格「介護」に変更でき、以下のメリットがあります。
14.1 国家試験の準備
介護福祉士国家試験は日本語で行われ、専門用語も多いため、合格のためには高度な日本語能力が必要です。事業者が試験対策講座を提供する例も増えています。
15. 訪問介護解禁の動向
これまで訪問介護は特定技能外国人の就労対象外でしたが、2025年4月以降、一定条件を満たした施設に限り解禁される予定です。
解禁の条件
訪問介護解禁によって、特定技能外国人の活躍の場が広がると期待されています。
16. 現場での課題
特定技能制度は優れた制度ですが、現場では様々な課題が存在します。
16.1 日本語能力の維持
最初は試験に合格していても、現場で専門用語を使いこなすには継続的な勉強が必要です。業務が忙しい中で学習時間を確保することは簡単ではありません。
16.2 メンタルヘルスの問題
異国での生活はストレスが多く、孤立感や不安を抱える外国人もいます。施設側は定期的な面談を通じ、メンタル面のフォローを行うことが求められます。
16.3 文化の違い
宗教上の理由で勤務が制限されるケースや、文化の違いによる誤解もあります。施設側は文化理解を深め、柔軟に対応する必要があります。
16.4 人材の定着率
外国人材の定着率向上には、待遇改善やキャリアパス提示が欠かせません。給与が低いままでは他職種へ流れるリスクが高まります。
17. 多文化共生の職場づくり
特定技能外国人の採用は単なる人手不足対策ではありません。共生の意識を高めるため、施設内で以下の取り組みが重要です。
18. 今後の展望
特定技能制度は、日本の介護現場を支える重要な制度です。今後、以下のような動きが予想されます。
日本の介護現場は多文化共生が避けられない時代に突入しています。特定技能制度をうまく活用し、制度の定着を図ることが、日本の介護サービスの質の維持に直結します。
19. まとめ
特定技能制度を活用した介護外国人の採用は、即戦力を確保するための有力な選択肢です。しかし、制度は多くの手続きや書類作成、支援体制の構築が求められます。採用後も、日本語力の維持、メンタルヘルスケア、文化的配慮など、継続的な取り組みが必要です。
今後、特定技能制度はさらに進化し、介護現場に欠かせない存在となるでしょう。事業者は制度を正しく理解し、外国人材が安心して働ける環境づくりを進めることが重要です。